クリスマスを待つ




クリスマスを待つ
 
デンマークの11月は、クリスマスを迎える準備を行う月です。12月25日のクリスマスに向けて、4週間前の日曜日からクリスマスイブの24日までは「アドヴェント」と呼ばれる期間になります。

今年は11月30日、12月7日、14日、21日が「アドヴェントの日曜日」です。この4回の日曜日を経てクリスマスが訪れます。4本のキャンドルを立てる「アドヴェント・リース」は11月に準備しますが、この4本は「アドヴェントの日曜日」を意味し、今年は11月30日に4本のうちの1本に火が灯されます。今月発刊のライフスタイル系の雑誌には「今年のクリスマスリースの作り方」が特集され、花屋さんにもさまざまな提案が並びます。

アドヴェントはクリスマスの準備期間を意味しますが、現在はクリスマス商戦が11月に入ると全開となり、11月そのものがクリスマスを待ち望み、準備を進める期間になっています。クリスマスを待つことがクリスマスを迎える楽しみの一つになっています。

デンマークでは、冬至を境に太陽の力が蘇るという北欧の古い考え方が今も根底にあります。そのため、冬至のすぐ後にやってくるクリスマスには「キリスト教としてのお祝い」に加え、「光を崇めるお祝い」という意味合いが深いように思います。暗い空間を電飾やキャンドル、焚き火で楽しむ文化は、光を象徴する太陽の力が再び蘇るよう願う気持ちに通じ、それは緯度が高く、太陽の恵みが限られている地域ならではの特徴ともいえます。

11月に入ると街並みもクリスマス仕様になります。夕方は4時前後には暗くなるので、夕方以降、建物に飾られた灯りはひときわ美しく感じられます。ベーカリーやケーキ屋さんにはクリスマスクッキーが並び、お店のレジには「胡椒粒」と呼ばれる一口サイズのまんまるクッキーを入れたボウルが置かれます。また、街頭やカフェでは「グルッグ」と呼ばれるスパイス風味のホットワインや、たこ焼きより少し大きいまんまるワッフル「エーブルスキーバ」がお目見えします。街頭で売られるアーモンドの砂糖がけもスパイス入り。湿った気候になりがちな11月には、スパイスの香りがあちこちで漂います。

ライ麦パン「ロブロ」を軸にしたレストランでのスメアブロランチは、忘年会の役割を果たすことが多く、この予約も早めの手配が必要です。

11月は約束や行事が多く慌ただしく過ぎてしまうことが多いのですが、クリスマスを待つ時期をどれだけ楽しく過ごすかを、デンマークの人々はとても大切にしているように感じます。

華やかなクリスマスの飾り(1枚目)クリスマスの焚き火(2枚目)
バニラ風味のリースクッキーとスパイスクッキー(1枚目)一口クッキー「胡椒粒」(2枚目)
グルッグ(1枚目)アーモンドの砂糖がけを売る露店(2枚目)
Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。
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