秋の入り口
2025.08.20

秋の入り口
デンマークの8月は猛暑とはほど遠く、朝夕は15℃前後の清涼な空気に包まれ、明るさが続く夏の名残を楽しみながら、秋の収穫を心待ちにする季節です。
8月初旬には小さなプラムが店頭に並び始め、下旬には早生のりんごが登場します。いちご、ラズベリー、すぐりと続いたベリー類も、ブラックベリーがたわわに実る頃には、秋の気配が感じられるようになります。郊外では、刈り取った麦のブロックが積まれている光景をあちこちで目にするようになり、いんげん、ズッキーニ、カリフラワー、キャベツ、フェンネル、不断草、ほうれん草など、店頭に並ぶ野菜も国産がほとんどを占めるようになります。
デンマークでは8月中旬に新学年が始まります。新しいリュックサックを背負った子どもたちの姿が目に留まりますが、開放感いっぱいの楽しい夏休みの後に始まる新学年は、どの子どもにとってもワクワクするもののようです。しっかりとリフレッシュしたあとは、新しいことに挑戦できる喜びが自然と湧いてくるのでしょう。また、家族以外にも自分の居場所があることを嬉しく感じているのかもしれません。夏の休暇から戻ってきた大人たちも、満面の笑みでこう口にします。「職場に戻って、自分の仕事ができるって、本当にありがたいことだと心から思うよ。」
学校が始まると、国中に漂っていた夏休みモードはすっかり影を潜めますが、天気のよい日には、海辺や公園、テラスなどで夏の名残を楽しむ人々の姿が見られます。
新学年の始まりには収穫の季節が重なることもあり、年齢に応じた農場体験がカリキュラムに組み込まれています。「土から食卓まで」というスローガンを掲げるデンマークでは、太陽と土が育んだ農作物が、お百姓さんの手を借りて実るまでのプロセスを体験することが、食育の一環として大切にされています。
また、生物の多様性や環境保全が重視される近年では、持続可能な社会づくりの一環として、オーガニック農業への関心が高まっており、農場見学や実習などのかたちで授業に取り入れられる機会も増えています。雑草や野草を大切にし、昆虫や微生物が過ごしやすい環境づくりを心がけながら、循環型の肥料で多様な野菜、豆、穀物を育てる。そして、牛や豚、鶏などの生態に即した方法で飼育する――こうした農場は、生態系の循環を学ぶうえで、理想的な学びの場といえるでしょう。
幼稚園での給食導入に関わっていた頃、8月の恒例行事として行われていたバター作りに、何度か参加しました。小瓶に入れた生クリームを何度も振って作る自家製バターを塗るのは、もちろん、ライ麦パン「ロブロ」。歯の跡がつくほどバターをたっぷり塗ったロブロを、嬉しそうに頬張る子どもたちの姿は、今も心に焼きついています。


熟したミラベル(プラムの一種)(1枚目)野菜の露店販売(2枚目)


収穫(1枚目)農業体験(2枚目)

ロブロにバターを塗ってPhoto: © Jan Oste
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。
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