オーガニック収穫祭




オーガニック収穫祭
 
デンマークの9月は収穫の季節です。夏の明るさを感じなくなる頃、5か月近く入手できなかった国産りんごや梨が店頭を飾りはじめます。9月のりんごや梨は早生の品種なので、みずみずしく爽やかな味と香りが特徴です。週末のオーガニックマーケットでも色とりどりの元気のよい野菜が種類豊かに並びます。

全国各地で展開される収穫にちなむイベントも9月の楽しみです。収穫の後に皆で祝う慣習は古くから伝わりますが、農村社会ではない今日、「収穫祭」は農家での仕事や考え方などを一般消費者に直接伝える格好の機会として利用されています。

全国を網羅するオーガニック連盟「オーガニック・デンマーク」は、毎年9月の第一週末に収穫祭を主催しています。事前に登録した全国のオーガニック農家が一斉に開催し、それぞれの農場の一部を開放して一般消費者を迎えます。

農家でのイベントは、農産物や畜産加工品の直販、農場のトラクターツアー、牛や豚、羊や鶏の生育環境の見学、りんご狩りなど、魅力的なイベントが目白押し。農場には楽しい雰囲気が漂い、大きな麦わらのブロックを積み重ねた納屋には子どもたちの歓声が響き渡りますが、オーガニック農業の価値観を肌で感じ、オーガニック農業が社会でどのような役割を持っているのかを再認識する機会にもなっています。

小さな子どもからシニアまで幅広い層が駆けつける収穫祭では、それぞれの農家で提供されるランチも楽しみの一つです。採れたての野菜で大量に仕込まれたスープにはライ麦パンのクルトンがよく合います。自ら畑の野菜やエディブルフラワーを採ってマイサラダを作るイベントなども存在します。

オーガニック食品は気候変動、生物の多様性、水環境、動物福祉などに配慮して生産されるため、オーガニック食品を選ぶことには多くの意義があるという考えは広く浸透し、国民の70%以上が毎週オーガニック食品を購入しています。また、給食や社食などの大量調理現場でのオーガニック食品の積極的な導入でオーガニック生産の拡大を図り、研究や教育の場などでも積極的な連携と協働を行うなど、持続可能な社会に向けての取り組みを社会全体で行っていることが、オーガニック収穫祭にも顕著に反映されているように感じています。

実りの秋は、太陽や土のめぐみを享受するばかりではなく、改めて未来の食や社会に思いをつなげる機会となっています。

早生りんご(1枚目)採れたての野菜が並ぶオーガニックマーケット(2枚目)
乗馬体験は人気のアトラクション(1枚目)オーガニックベーカリーのフードトラック(2枚目)
畑で採った野菜とエディブルフラワーのサラダ(1枚目)ライ麦パンクルトン入りのポタージュ(2枚目)
Photo: © Jan Oste


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。
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