
リヴ島での圃場見学 ― 自然の循環を未来へつなぐ農業
デンマーク・ユトランド半島北部、リムフィヨルドに浮かぶ小さな島、Livø(リヴ島)。デンマーク語で「ø」は島を意味します。面積約333ヘクタールのこの島には約6,000年前の石器時代から人々が暮らしてきた歴史があり、現在は農地、森林、自然保護地区がほぼ同じ割合を占める国有地となっています。定住する家族はわずか3世帯。島では唯一の農場であるLivø Avlsgård(リヴ島アウルスゴー)が農業を担っています。
この農場は、宇宙や自然のリズムを尊重するバイオダイナミック農業(ビオデュナミ)の認証を受け、環境再生農業にも取り組んでいます。さらに、リヴ島の環境を活かした「ゼロ・インプット」と呼ばれる農法を実践していることでも知られています。
ゼロ・インプットとは「何も投入しない農業」ではなく、島の外から肥料や養分を持ち込まず、太陽、雨、島で放牧される牛の堆肥、自家製コンポスト、そして土壌微生物の働きなど、島にある資源だけを循環させて穀物を育てるという考え方です。
リヴ島では島全体が一つの生態系として管理されています。ここでの農業に欠かせない牛は丈夫で放牧に適した品種で、草地の環境を維持し、多様な生きものの生息環境を支えるとともに、その堆肥は土壌を豊かにする大切な資源となっています。自然の循環を最大限に活かし、生態系そのものを農業の基盤とするこの取り組みは、持続可能な農業の一つの理想形として注目されています。
この農場では、島で収穫される穀物を製粉するアウリオン社と協働し、デンマークのライ麦パン「ロブロ」の主原料となるライ麦をはじめ、スペルト小麦や大麦などの古代穀物や在来品種を栽培しています。また、島全体を「実験農場」と位置づけ、失われつつあった穀物や新たな品種の可能性を探る試験栽培にも取り組んでいます。
この農場での圃場見学は毎年7月に行われ、約50名が島を訪れます。生産者夫妻が用意した昼食やティータイムを囲みながら、風に揺れるライ麦やスペルト小麦の畑を歩き、生産者から土づくりや農業への思いを直接聞く時間は、製粉された粉からは見えない背景を知る貴重な機会です。畑を訪れることで、穀物が土壌や気候、多様な生きもの、そして人の営みという大きな循環の中で育まれていることを実感できます。
「自然との共生」は、アウリオン社が創業以来50年以上にわたり大切にしてきた理念です。島の資源を循環させ、豊かな土壌を未来へ受け継ぐ──その積み重ねが、おいしいパンを育み、豊かな食文化を支え、私たちの食卓へとつながっています。生産者とともに圃場を歩き、その農業に込められた思いや温かいおもてなしに触れることで、自然の循環を肌で感じられることこそ、リヴ島を訪れる魅力なのだと思います。









