土から食卓へ、そして未来へ ― デンマークの食育




土から食卓へ、そして未来へ ― デンマークの食育
 
「土から食卓へ(Jord til Bord)」は、デンマークで広く共有されている食の教育コンセプトです。
特定の教育プログラムを指すのではなく、農業、環境、消費、料理、循環を一体として捉え、食材が育ち、食卓に届くまでの過程と、それを取り巻く環境とのつながりを学ぶという考え方です。

その中心にあるのは、座学による知識の習得ではありません。食べ物が育ち、収穫され、料理される。そして、みんなで食卓を囲んで味わう。その一部、あるいは一連の流れを実際に体験しながら、食べ物と自然や社会とのつながりを理解していくプロセスが重視されています。近年では、持続可能性の視点にも、いっそう重きが置かれています。

日本の「食育」は、栄養バランスや健康、望ましい食習慣、食文化の継承などを軸としているように映ります。一方、デンマークの「土から食卓へ」には、自然や食材に触れ、味わい、自ら考えるという特徴があります。さまざまな事柄を広く扱うのではなく、一つのテーマを実践に基づいて深く掘り下げ、そこから多様なつながりを見いだしていくのです。

その入り口が日々の暮らしに馴染んでいることも、特徴の一つです。例えば復活祭の前には、保育園や幼稚園、小学校低学年の子どもたちが、窓辺でガーデンクレスを育てます。成長したクレスは、復活の象徴である卵とともに、デンマークのライ麦パン「ロブロ」にのせ、スメアブロとして味わいます。毎年繰り返される小さな体験を通して、季節の巡りや植物の成長、食文化が自然に結びついていくのです。私にも、息子が手製の小さな紙箱いっぱいに育てたガーデンクレスを復活祭の休暇前に持ち帰ってくれ、一緒にスメアブロを作った懐かしい思い出があります。

学校では、ジャガイモを掘ったり、畑を手入れしたりするなど、実際に農場で作業を体験する期間が設けられることもあります。また、島を自転車で巡り、その土地の自然や産業について学び、特産品の製造現場を見学して、できたてのものを味わうといった体験学習も行われています。こうした学びには、理科、家庭科、社会など、複数の教科の要素が含まれます。持続可能性についても、食べることを入り口に、オーガニック、フードマイレージ、食品ロスなどについて考えるのです。

春の「オーガニックデー」や秋の「オーガニック収穫祭」をはじめ、家族で気軽に参加できる行事が全国各地で催され、社会の中に根づいていることも、デンマークの特徴と言えるでしょう。夏休みには体験型農場を訪れ、動物に触れ、乳を搾り、麦わらと戯れながら、農場の営みやそこで生み出されるものを身近に感じることができます。

「土から食卓へ」は、食の視点から日々の暮らしを捉え、その営みを未来へとつないでいく考え方です。食べることを通して、自然や社会とのつながりを知り、自らの暮らしについて考える。そうした認識と学びを、持続可能な社会を実現するための一歩と捉えるところに、デンマークの食育の大きな特徴があるように思います。

卵サラダにガーデンクレスをのせたスメアブロ(1枚目)熟れたトマトを探している女の子(2枚目)
収穫祭での農場トラクターツアー(1枚目)焚き火で棒に巻きつけたパンを焼く(2枚目)
Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30 年以上の暮らしで築いた独自の視点で、デンマークの豊かな文化と人々の暮らしに密着してきたパン「ロブロ」の魅力を伝えている。『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』著者。『北欧料理大全』『スモーブロ・ザ・マニュアル』訳者。
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